BRC Current Technology August 2012

RIKEN BRC
BRC Current Technology
August 2012

5. 抗インヒビン抗体による過排卵誘起法

野生由来マウスの効率的保存と利用へ

Superovulation

哺乳動物における排卵のタイミングと数の調整は、下垂体-性腺軸により支配されており、通常は定期的に1個から少数の卵子しか排卵されません。 そこで、繁殖学や発生学の実験では、多くの卵子を得るために、人為的にホルモン投与を行います。この技術を過排卵誘起(superovulation)と呼びます。 実験用マウスの過排卵誘起は、卵胞刺激ホルモン作用(FSH)を持つウマ絨毛性性腺刺激ホルモン(equine chorionic gonadotropin、eCG)により多数の卵胞を発達させ、続いてヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(human chorionic gonadotropin、hCG)により排卵を誘起します。
大部分の系統マウスは、この処理により1匹から20-40個程度の卵子を得ることができますが、多くの野生由来マウスではうまく反応しないことが知られています。 1つの原因として、別種由来のホルモンに反応をしないことが考えられます。そこで、インヒビンと呼ばれる生殖腺由来のFSH抑制ホルモンに対する抗体を投与することにより、内因性のFSHを上昇させることを試みました。 すなわちネガティブフィードバックの抑制であり、いくつかの動物種で効果があることが知られている方法です。その結果、代表的な野生由来マウスである MSM/MsとJF1/Msで、5個程度の排卵数を平均25個まで上昇させることに成功しました。 これらの卵子は、体外受精により正常に発生し、2細胞期での胚凍結保存も可能でした。現在この技術を他の多数の野生由来マウス系統に応用し、胚凍結保存を進めています。 また、胚移植技術も改良し、野生由来マウス産子の出生時生存率を高めることにも成功しています。これまで生体でしか維持できなかった野生由来マウス系統の多くが、安全に凍結保存することが可能になるとともに、研究者への安定した供給体制も確立したと言えます。 今後の生物学の発展に大いに貢献することが期待されます。
(理研BRC遺伝工学基盤技術室)

 

Reference:Hasegwa et al., Biol. Reprod. 86(5):167, 1-7. Print 2012
Comment in:Ward MA, Biol. Reprod. 86(5):168, 1-2. Print 2012


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