時計遺伝子Bmal1の転写リズム制御メカニズム

RIKEN BRC October 2023
Mouse of the Month

時計遺伝子Bmal1の転写リズム制御メカニズム

C57BL/6J-Arntl<em1Yshtn> (RBRC11753)
C57BL/6J-Arntl<em2Yshtn> (RBRC11754)

Oxtr KI mice

時計遺伝子Bmal1遺伝子のリズム制御と体内時計振動の関連性。野生型(左)においては、Bmal1遺伝子はゲノム上流に存在する時計シスエレメントRREによってリズミックに転写制御されており、安定した体内時計の振動が観察される。Bmal1遺伝子を欠損したとき(中央)にはBmal1は発現せず、体内時計の振動が消失することが知られていたが、Bmal1遺伝子がリズミックに転写制御される意義はわかっていなかった。本研究では、Bmal1上流の時計シスエレメントRREを欠損することにより、Bmal1遺伝子は発現するものの発現リズムが消失した状態を作り出すことに成功した(右)。このとき、体内時計振動が観察されたが、野生型に比べて脆弱になることが明らかになった。

体内時計は外界の24時間周期に合わせて、睡眠・代謝・ホルモン分泌といった様々な生理機能を、約24時間周期でリズミックに制御する内因性の計時システムです。哺乳類の体内時計は、遺伝子の転写と翻訳を経由したフィードバックループが2つ組み合わさって制御するという振動モデルがこれまで提唱されてきました。しかし、これらフィードバックループによる転写制御機構の意義に関してははっきりしていませんでした。寄託者の吉種光先生らは、体内時計振動に必須の転写因子をコードする時計遺伝子Bmal1(Arntl)に着目し、Bmal1遺伝子の上流で転写制御を担う時計シスエレメントRREを欠損させた時の影響を、培養細胞、マウス個体、数理シミュレーションを用いて解析しました。その結果、時計シスエレメントRREの欠損によってBmal1のmRNA転写リズムが消失し、転写レベルが一定になるものの、体内時計振動は変わらず維持されることを明らかにし、時計シスエレメントRREを介したBmal1転写リズムによるフィードバックループは、体内時計振動の安定化に寄与していることを示唆しました。
理研BRC実験動物開発室からは、ゲノム編集技術によって時計シスエレメントRREを欠損させた変異マウス(RBRC11753、RBRC11754)を提供可能です。基礎研究分野だけではなく、臨床面においても注目の高い体内時計の分子メカニズムの一端を明らかにした本研究成果は、今後大きな発展が期待されます。

 

Keywords : 体内時計、振動モデル、時計シスエレメント、Bmal1、RRE
Depositor : 吉種光先生 (東京都医学総合研究所)
Strain name : C57BL/6J-Arntl<em1Yshtn>
RBRC No. : RBRC11753
Strain name : C57BL/6J-Arntl<em2Yshtn>
RBRC No. : RBRC11754
References : [1] Abe YO, Yoshitane H, Kim DW, Kawakami S, Koebis M, Nakao K, Aiba A, Kim JK, Fukada Y.
Rhythmic transcription of Bmal1 stabilizes the circadian timekeeping system in mammals.
Nat Commun. 2022 Aug 23;13(1):4652.
[2] 時計遺伝子Bmal1が時刻依存的に転写される仕組みと意義
2022年8月23日東京大学プレスリリース

 

October 2023
Saori Mizuno, Ph.D.
Contact: Experimental Animal Division, RIKEN BioResource Research Center (animal.brc@riken.jp)
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