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19. 野生マウスの血球からES細胞を樹立核移植技術を利用した野生マウスゲノムの保存法を開発 |
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実験用マウスは、小型で飼育が容易、妊娠期間が短い、生殖補助技術(ART)の適用が可能、といった理由から最も多く利用されている実験動物です。しかしながら、西ヨーロッパという限定した地域に由来する小さな集団から繁殖されたために、遺伝情報に多様性が少ないことが欠点としてあげられます。 一方で、野生マウスは世界中から収集され継代されたマウスで、遺伝的多様性が大きいため、実験用マウスの欠点を補う目的で使用されていますが、ARTの適用が困難な系統が含まれているため、保存や継代が難しいという欠点があります。 継代が困難な野生マウスを保存する方法としてES細胞株の樹立は効果的ですが、ES細胞は受精卵を必要とするため、ARTが難しい系統におけるES細胞の樹立は困難です。今回私たちは核移植技術を利用して、ARTが困難な野生マウスからES細胞を樹立することに成功しました。 実験用マウスの亜種にあたる野生マウスを利用し(図A)、末梢血由来の白血球を単離して(B:黒矢印)、実験用マウスの卵子に核移植を行いました(C)[1]。これにより、低侵襲な細胞の採取が可能になります。核移植後の胚を培養液に移して、核移植ES細胞を樹立した後(D)、キメラマウスを作製したところ(E)、次世代を誕生させることに成功しました(F:白矢印が核移植ES細胞に由来する子マウス)。 この技術により、ARTによる保存が困難なマウス系統であっても、実験用マウスの卵子をうまく利用する事で、効率的な保存が可能になることが示されました[2]。 |
References: | [1] | Kamimura, S. et al. Mouse cloning using a drop of peripheral blood. Biol. Reprod. 89, 24 (2013) |
[2] | Watanabe, N. et al. Derivation of embryonic stem cells from wild-derived mouse strains by nuclear transfer using peripheral blood cells. Sci. Rep. 13, 11175 (2023). |