NBRP Mouse & Rat News
GADアイソフォーム解析ツール
Vol.1 2022年9月
γ-アミノ酪酸(GABA) は、哺乳類の中枢神経系における主要な抑制性神経伝達物質です。GABAはグルタミン酸からグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)によって合成されます。GADにはGAD67とGAD65という分子量の異なる2種類のアイソフォームが存在し、それぞれGad1、Gad2遺伝子によって独立してコードされています。GAD65 と GAD67 はアミノ酸配列の同一性が 65% と高い相同性を有していますが、分子量、補酵素の相互作用、細胞内分布により区別されています。GAD65とGAD67はGABA作動性ニューロンで共発現し、GAD65は活動依存的にGABAを合成して小胞放出するのに対し、GAD67は基底状態のGABA量を維持します。この2つのGADアイソフォームは、多くのヒト神経精神疾患と関連していることが報告されていることから、その機能解析に期待が集まっています。
Mouse resources
Gad1 KOマウスは新生児致死であることが知られており、成熟脳におけるGAD67の機能不全がもたらす神経生物学的影響に関しては十分な理解が進んでいません。そこで、GAD67の成体でのグローバルロスの影響を解析するツールとして、理研BRCからは、テトラサイクリン制御遺伝子発現抑制システム(Tet-offシステム)を利用したGAD67ノックダウンマウスを提供可能です(図1)。このGAD67ノックダウンマウスはGad1翻訳開始点上流にStop配列に続いてtetO配列を挿入したマウス(Gad1-Stop-tetOノックインマウス;RBRC11364)と、内在性Gad1プロモーター制御下でtTAを発現するKI系統(Gad1-tTAノックインマウス;RBRC11365)との交配により作出します。産出したダブルノックインマウスは、成体まで生存し、ドキシサイクリン投与によってGAD67タンパク質の発現を抑制することができます。実際に、このGAD67ノックダウンマウスは行動異常を示すことが報告されており、今後、更なる解析により、神経精神疾患関連研究に貢献することが期待されます。
Courtesy of Yuchio Yanagawa, M.D., Ph.D.
図1. Tet-offシステムを用いたGAD67ノックダウンマウス。
ドキシサイクリン (Dox) 未投与では、tTAタンパク質がtetO配列に結合し、Gad1遺伝子発現促進とそれに伴うGAD67タンパク質の産生が促進する。一方、Doxを投与すると、Gad1遺伝子発現抑制とそれに伴うGAD67タンパク質の産生が抑制される。
Depositor | 柳川右千夫 先生 (群馬大学) |
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Rat resources
ラットでは、CRISPR/Cas9或いはTALENのゲノム編集技術を用い、Gad1、Gad2遺伝子をそれぞれKOした系統が樹立されています。それぞれのヘテロKOラット(ダブルヘテロ)を掛け合わせて作製したGad1/Gad2 ダブルKOラットは、マウス同様に脳内 のGABAがほとんど存在せず、出生日にすべて死亡します。一方、Gad1、Gad2遺伝子単独のKOは、マウスの表現型と相違がみられます(表1)。Gad1 KOマウス(周産期)の脳内GABA含量は野生型の7%にまで減少しますが、Gad1 KOラットでは野生型の18%が合成されており、GABA合成における両アイソフォームの寄与度が異なる可能性が示唆されます(Gad2 KOマウス、ラットの脳内GABA含量はそれぞれ87%、71%)。また、Gad1 KOラットは成体まで生存が可能であり、表現型の解析を行うことができます。ラットはマウスに比べ体が10倍程大きく、複雑な行動解析にも対応できる利点があります。Gad1 KOラット、Gad2 KOラットは、ナショナルバイオリソースプロジェクト「ラット」に寄託されており、入手することが可能です。
Courtesy of Yuchio Yanagawa, M.D., Ph.D.
Depositor | 柳川右千夫 先生 (群馬大学) |
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