BRC Current Technology January 2019

RIKEN BRC BRC Current Technology
January 2019

12. 体細胞クローンマウスの最高出生率を達成

二つの発生阻害因子を同時に回避

図AとB


(A) 最適化したマウスの体細胞クローン法。一つ目の阻害因子である「Xist遺伝子の異常な活性化」を、Xistのノックアウト体細胞をドナーとして使用することによって回避。さらに二つ目の阻害因子である「ヒストンH3の9番目リジンのトリメチル化」を、ヒストン脱メチル化酵素Kdm4dの過剰発現によって回避。
(B) 卵丘細胞(卵子周囲の体細胞)を用いたクローンマウスの出生率の推移。
Kdm4dの過剰発現と、Xistノックアウト体細胞を併用することで、過去最高の値を記録した。

RIKEN BRC では、マウスの体細胞クローン法の実用化に向けてその技術改良を進めています。体細胞クローン法を使うと、もとの個体と同じ遺伝情報を持つ個体をコピー(クローン)できることから、通常の交配では繁殖不能な個体や、有用な形質をもった個体を、効率的に増殖させることができます。ただし、いまだにマウスのクローン法は実用化されていません。その理由は、クローン胚のほとんどが発生途中で死んでしまうためです。これまで我々のグループでは、クローン胚の発生を阻害する主要な因子を2つ同定してきました。一つ目の因子である「Xist遺伝子の異常な活性化」は、Xistのノックアウト細胞をドナーとして使用することで回避できます[1 ,2]。また、二つ目の因子である「ヒストンH3の9番目リジンのトリメチル化(H3K9me3)」は、ヒストン脱メチル化酵素Kdm4dの過剰発現によって取り除くことができます[3]。今回、これらの2つの因子を同時に除去することで、最大で24%程度(セルトリ細胞クローン)にまでクローンマウスの出生率を向上させることに成功しました[4]。クローンの効率が大幅に改善したことから、今後は様々なマウス系統での応用が期待されます。

 

References: [1] K. Inoue et al. “Impeding Xist expression from the active X chromosome improves mouse somatic cell nuclear transfer.” Science, vol. 330, no. 6003, pp. 496–9, Oct. 2010.
[2] S. Matoba et al. “RNAi-mediated knockdown of Xist can rescue the impaired postimplantation development of cloned mouse embryos.” Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., vol. 108, no. 51, pp. 20621–6, Dec. 2011.
[3] S. Matoba, et al. “Embryonic development following somatic cell nuclear transfer impeded by persisting histone methylation.” Cell, vol. 159, no. 4, pp. 884–895, Oct. 2014.
[4] S. Matoba, et al. “Loss of H3K27me3 Imprinting in Somatic Cell Nuclear Transfer Embryos Disrupts Post-Implantation Development.” Cell Stem Cell, vol. 23, no. 3, pp. 343–354.e5., 2018.


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