BRC Current Technology November 2014 |
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9. 生殖細胞を用いた核移植発生エピジェネティクス研究への応用 |
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除核(染色体除去)卵子への核移植は、ドナー細胞の遺伝情報を持つ胚を作出する技術である。核移植によって、ドナー核のゲノムは大規模な再プログラム化(初期化)を進行させ、受精卵ゲノムと同等の全能性(totipotency)を獲得する。しかし、生殖細胞の発生過程でゲノムに記録された一部のエピジェネティクス記憶、例えば片親性記憶(ゲノム刷込み)は、再プログラム化されずに再構築胚に引き継がれる。この現象を利用して、さまざまな発生段階の生殖細胞をドナー細胞とすることにより、これらのドナーゲノムの記憶が制御している胚や胎仔を作出することができる。これらの胚や胎仔からは、DNAメチル化情報のみならず、遺伝子発現パターンの情報も得られ、しかも単一ゲノムにおける複数遺伝子の動態を調べることができる。このようにして得られた情報によって、初期始原生殖細胞(最初に現れる生殖細胞)における胎仔細胞由来のゲノム刷込みの消去[1]、前精原細胞における父方ゲノム刷込みの成立[2]、発育卵子における刷込み型X染色体不活化のインプリントの成立[3]の理解を深めることが可能である。核移植技術は、クローン動物の作出という実用的な側面のみならず、発生過程におけるエピジェネティクス研究にも大いに役立っている。 |