CD103陽性樹状細胞と消化管粘膜免疫寛容の関係性

RIKEN BRC April 2024
Mouse of the Month

CD103陽性樹状細胞と消化管粘膜免疫寛容の関係性

C57BL/6-Tg(Itgae-HBEGF/EGFP)1Ksat (RBRC11949)
C57BL/6-Tnfsf15<em1Ksat> (RBRC11950)

A,B,C

CD11c-Cre:CD103-LSL-DTRマウスとTnfsf15遺伝子欠損マウスの特徴。
(A, B)DTを投与したCD 11c-Cre:CD103-LSL-DTRマウスにおける腸間膜リンパ節の免疫学的解析。
(A)腸間膜リンパ節を抗CD11c抗体(緑)、抗CD103抗体(赤)、抗CD19抗体(青)を用いて免疫蛍光染色解析した。DT投与によりCD11c+CD103+cDCs(黄[緑+赤])の特異的消失が認められる。
(B)腸間膜リンパ節白血球を抗CD11c抗体と抗CD103抗体を用いてフローサイトメトリー解析した。DT投与によりCD11c+CD103+cDCsの特異的消失が認められる。ドットプロット中の数値は腸間膜リンパ節白血球中のCD11c+CD103+cDCsの割合(%)。
(C) Tnfsf15遺伝子欠損マウスにおける腸間膜リンパ節のCD11c+cDCsを抗TLA1抗体を用いてフローサイトメトリー解析した。野生型(wild-type; WT)マウスの腸間膜リンパ節のCD11c+cDCsではTL1Aの発現が認められるが、Tnfsf15遺伝子欠損(TL1A KO)マウスの腸間膜リンパ節のCD11c+cDCsではTL1Aの発現が認められない。

2023年5月、寄託者の佐藤克明先生らは、抗生剤服用によって引き起こされる消化管細菌叢異常が、アレルギー発症リスクの増加に繋がる消化管粘膜免疫寛容の破綻を導くメカニズムを発見し、発表しました。この研究成果は、アレルギーに対する新規治療法開発の糸口として注目されています。今回は、この研究で用いられた遺伝子改変マウス2系統をご紹介します。
B6.CD103-LSL-DTRマウス(RBRC11949)は、Cd103遺伝子エクソン31の直下に、loxP配列に挟まれたSTOP配列(LSLカセット)と、ヒトジフテリア毒素受容体(diphtherial toxin [DT] receptor; DTR)-EGFPカセットを持つBAC Tgマウスです。CD103陽性細胞において、Cre組み換え酵素存在下でDTRを発現し、DT投与時にCD103陽性細胞の欠失が誘導されます。CD103はインテグリンスーパーファミリーに属する細胞接着分子で、E-カドヘリンとの相互作用し、免疫細胞の皮膚組織や粘膜組織への局在することが知られています。佐藤先生らは、B6.CD103-LSL-DTRマウスと、通常型樹状細胞(conventional dendritic cells; cDCs)で発現するCd11c遺伝子のCreドライバーマウスを交配し、DTを投与して、CD103陽性cDCs欠損マウスを作製し、CD103陽性cDCsの機能解析を行いました。
Tnfsf15遺伝子欠損マウス(RBRC11950)は、CRISPR/Cas9システムを用いて、Tnfsf15遺伝子のエクソン2, 3を含む3,014bpが欠失したゲノム編集マウスです。サイトカインTNF(tumor necrosis factor)ファミリーに属するTnfsf15遺伝子は、TL1A(TNF-like ligand 1a)をコードします。TL1Aの受容体はTNF受容体ファミリーのうちのDR3(TNFRSF25)です。TL1AはcDCsやマクロファージから産生され、TL1A の受容体であるDR3(TNFRSF25)が高発現するT細胞や自然リンパ球等に作用し、炎症性免疫疾患に関与することが知られています。佐藤先生らは、Tnfsf15遺伝子欠損マウスを用いて、腸間膜リンパ節でのTL1A産生低下と、免疫抑制機能喪失との関係性を明らかにしました。
B6.CD103-LSL-DTRマウスもTnfsf15遺伝子欠損マウスも、免疫学分野と、それに関わる疾患研究に、新たな知見をもたらすことが期待される、有用な系統です。

 

Keywords : 消化管細菌叢異常、消化管粘膜免疫寛容、アレルギー、CD103、TL1A
Depositor : 佐藤克明先生(宮崎大学)
Strain name : C57BL/6-Tg(Itgae-HBEGF/EGFP)1Ksat
RBRC No. : RBRC11949
Strain name : C57BL/6-Tnfsf15<em1Ksat>
RBRC No. : RBRC11950
References : [1] Fukaya T, Uto T, Mitoma S, Takagi H, Nishikawa Y, Tominaga M, Choijookhuu N, Hishikawa Y, Sato K.
Gut dysbiosis promotes the breakdown of oral tolerance mediated through dysfunction of mucosal dendritic cells.
Cell Rep. 2023 May 30;42(5):112431.
[2] 幼若期の抗生剤服用がアレルギー発症リスクを高める仕組みを発見-幼若期の抗生剤服用による消化管細菌叢異常が消化管粘膜免疫寛容の破綻を導く―
2023年4月28日宮崎大学プレスリリース

 

April 2024
Saori Mizuno, Ph.D.
Contact: Experimental Animal Division, RIKEN BioResource Research Center (animal.brc@riken.jp)
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