内耳特異的にGata3遺伝子の発現を制御する エンハンサー配列Gata3 OVE

RIKEN BRC August 2021
Mouse of the Month

内耳特異的にGata3遺伝子の発現を制御する
エンハンサー配列Gata3 OVE

B6D2-Tg(Gata3/coreOVE-cre)#2481Mpu (RBRC10625)

蝸牛特異的な組み換え

Courtesy of Takashi Moriguchi, M.D., Ph.D.

Tg(Gata3/coreOVE-cre) #2481マウスでの蝸牛特異的な組み換え
(ROSA26レポーターマウスと交配)

GATA3は様々な組織で発現し、精密にプログラムされた発生過程を正常に実行する上で重要な転写因子です。内耳においては、胎生8日の未熟な内耳原基で発現が見られ始め、その後、耳胞、さらには三半規管、蝸牛へと続く内耳分化過程において必須であることが知られています。しかし、GATA3の発現がどのようにコントロールされているのか、その制御メカニズムに関しては明らかになっていませんでした。
寄託者の森口先生らは、染色体上のGata3遺伝子から3’側571 kb離れたところに存在する1.5 kbのシスエレメントが、未熟な内耳原基特異的にGata3遺伝子の発現を誘導するエンハンサー領域(OVE; otic vesicle enhancer)であることを発見しました。さらに、OVE内でも特に3’側の246 bp配列(coreOVE)は、マウスとヒトとで共通して見られる保存配列で、Sox (sex-determining region Y box)やPax(paired box)といった発生に関与する他の転写因子がcoreOVEに結合することで、内耳でのGATA3発現を活性化することを明らかにしました。また、Gata3遺伝子のcoreOVE制御下でCre酵素を発現するトランスジェニックマウス(RBRC10625: B6D2-Tg(Gata3/coreOVE-cre) #2481マウス)を作製し、Gata3 floxed マウスと交配させることで、内耳原基特異的にGATA3を欠損するマウスを作製、実際に三半規管と蝸牛が正常に形成されないことも報告しています。
臨床面においては、GATA3遺伝子は遺伝性感音難聴の原因遺伝子の1つでもあります。感音難聴は、内耳から聴神経、脳の中枢へと繋がる、感音器といわれる部分の障害を起因とする難聴です。先天性と後天性とがあり、そのうち、先天性感音難聴に関しては、その半数以上が遺伝子変異によるものです。今後、内耳発生過程においてGATA3が下流のターゲット遺伝子をどのように制御しているのか分子メカニズムを明らかにすることで、遺伝性感音難聴の病態理解と新規治療法の開発につながることが期待されます。

 

Depositor : 森口 尚 先生
東北医科薬科大学
Strain name : B6D2-Tg(Gata3/coreOVE-cre)#2481Mpu
RBRC No. : RBRC10625
Reference : [1] Moriguchi T, Hoshino T, Rao A, Yu L, Takai J, Uemura S, Ise K, Nakamura Y, Lim KC, Shimizu R, Yamamoto M, Engel JD.
A Gata3 3′ Distal Otic Vesicle Enhancer Directs Inner Ear-Specific Gata3 Expression
Mol Cell Biol. 2018 Oct 15;38(21):e00302-18.

 

August 2021
Saori Mizuno, Ph.D.
Contact: Experimental Animal Division, RIKEN BioResource Research Center (animal.brc@riken.jp)
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