効率的なゲノム編集マウス作製実現のため 開発されたCas9 Tgマウス

RIKEN BRC May 2021
Mouse of the Month

効率的なゲノム編集マウス作製実現のため開発された
Cas9 Tgマウス

B6;B6D2-Tg(CAG-hCas9)2Saku (RBRC10984)

sCAT mice IVF

Courtesy of Takayuki Sakurai, Ph.D.

Production of genetically engineered mice using maCas9 zygotes.

(A) Schematic illustration of the generation of maCas9 zygotes by IVF with sCAT Tg/+ ♀ and +/+ ♂. (B) Gel images of Cas9 genotyping and T7EI assay for each pup developed from maCas9 zygotes electroporated with only ramp1 gRNAs. Lanes 1-9 show PCR products amplified from the genetic DNA of 9 pups obtained. Pups 1, 4, 5, 7 and 9 were Tg/+. Pups 2, 3, 6 and 8 were +/+. All pups 1-9 were identified as indel mutants. M, lambda Hind III+100bp ladder markers. WC, wild control.

 

現在、遺伝子改変マウスの作製には、CRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集法が主流になりつつあります。しかし、全ての遺伝子改変マウスの作製が、この方法でカバーできるわけではありません。外来DNAを標的部位に挿入するノックイン効率が低かったり、同時に複数の遺伝子をターゲットに編集を加えることが困難であったりと、解決すべき問題点が残っているのが現状です。

今回ご紹介するsCAT (systematically Cas9-expressing transgenic)マウス(RBRC10984)は、CAG プロモーター制御下でhumanized Cas9を発現するTgマウスです[1]。寄託者の桜井先生らは、上記の問題点を解決するために、効率的にゲノム編集マウスを作製するためのツールとしてsCATマウスを開発しました。そして、sCAT雌マウスを用いて作出した体外受精胚maCas9 zygotes (maternal Cas9を含む受精卵)を用いた、新規ゲノム編集マウス作製方法を報告しました[2]。まず、本方法で、高効率なノックインマウス作製が可能であるかを確認するため、単一遺伝子をターゲットに、任意のgRNA (guide RNA)とHDR (homology direct repair)のテンプレートとなるノックイン用のssODN (single-strand oligodeoxynucleotide)を、maCas9 zygotesにエレクトロポレーション法によって、導入しました。その結果、従来の外来Cas9 mRNA(またはタンパク質)を共導入した場合と比較して、モザイク変異率は低く、ノックイン効率は高く、マウス出生率も高いという結果を得ました。また、同時に複数の遺伝子をターゲットにすることが可能であるかを確認するために、10遺伝子に対するgRNAを一度にエレクトロポレーション法によってmaCas9 zygotesに導入したところ、最大で9遺伝子がindel (insertion/deletion)変異を生じており、この場合においても、従来の方法と比較して、indel変異率は高く、マウス出生率も高いという結果を得ました。

これより、maCas9 zygotesを用いたゲノム編集法は、効率的なノックインマウスの作製、および、多重遺伝子ゲノム編集マウスの作製に有用であり、今後、多因子疾患モデルの作製等に応用利用されることが期待されます。また、sCATマウスは、心臓、精巣、筋など主要な臓器でのCas9 mRNAの発現が確認されていることから、他のin vivo およびin vitro実験においても、有用であるといえます。

 

Depositor : 桜井 敬之 先生
信州大学
Strain name : B6;B6D2-Tg(CAG-hCas9)2Saku
RBRC No. : RBRC10984
References : [1] Sakurai T, Kamiyoshi A, Kawate H, Mori C, Watanabe S, Tanaka M, Uetake R, Sato M, Shindo T.
A non-inheritable maternal Cas9-based multiple-gene editing system in mice.
Sci Rep. 2016 Jan 28;6:20011.
[2] Sakurai T, Kamiyoshi A, Kawate H, Watanabe S, Sato M, Shindo T.
Production of genetically engineered mice with higher efficiency, lower mosaicism, and multiplexing capability using maternally expressed Cas9.
Sci Rep. 2020 Jan 23;10(1):1091.

 

May 2021
Saori Mizuno, Ph.D.
Contact: Experimental Animal Division, RIKEN BioResource Research Center (animal.brc@riken.jp)
All materials contained on this site may not be reproduced, distributed, displayed, published or broadcast without the prior permission of the owner of that content.


コメントは受け付けていません。