3.0-Mb欠失を再現した22q11.2欠失症候群モデルマウス

RIKEN BRC November 2021
Mouse of the Month

3.0-Mb欠失を再現した22q11.2欠失症候群モデルマウス

C57BL/6N-Del(16Pi4ka-Hira)Atai (RBRC11066)

3.0-Mb欠失の概要

Courtesy of Atsu Aiba, Ph.D.

22q11.2欠失症候群3.0-Mb欠失モデルマウスの概要。このモデルマウスでは22q11.2欠失症候群の患者で見られる3.0-Mb領域の欠失(青色の範囲)に相当する欠失(赤色の範囲)を再現している。

22q11.2欠失症候群はヒト22番染色体長碗(q)11.2領域に微細欠失が認められる染色体疾患です。4,000~5,000人に1人の頻度で発症すると言われ、そのうち最も主要なタイプは、特定の3.0Mb領域の欠失です。この領域には、45個のコーディング遺伝子が存在し、マウス16番染色体長腕A13領域(Pi4kaHira間)にシンテニーを持ったまま保存されています。今回ご紹介する新規22q11.2欠失症候群モデルマウスは、この3.0Mb領域欠失を、CRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集法によって再現した系統です (RBRC11066: Del(3.0Mb)/+マウス)。
22q11.2欠失症候群では、先天性心疾患、特徴的顔貌を合併し、胸腺低形成・無形成による免疫低下、口蓋裂・軟口蓋閉鎖不全、鼻声、低カルシウム血症などが見られることもあります。実際にDel(3.0Mb)/+マウスの組織学的解析を行ったところ、患者で見られる、大動脈弓離断、右鎖骨下動脈起始異常、胸腺低形成が観察されました。
また、22q11.2欠失症候群では、前述の多様な臨床症状に加えて、統合失調症、知的障害などさまざまな精神疾患や発達障害の発症リスクを高めることが知られています。実際にDel(3.0Mb)/+マウスの行動解析を行ったところ、オープンフィールド試験とY字型迷路試験における活動量・探索行動の低下、社会的相互作用試験における新奇のマウスとの接触時間の減少、恐怖条件付け記憶学習試験における記憶力の低下、プレパルス抑制の低下・視覚誘発電位の振幅低下といった統合失調症様の表現型を示しました。
精神疾患の多くは、罹患頻度が高いにもかかわらず、適した動物モデルが十分存在せず、発症メカニズムの解明と、それに基づく治療法の開発が確立していないのが現状です。今回のDel(3.0Mb)/+マウスは、統合失調症をはじめとする22q11.2欠失症候群と関連する精神疾患の研究に貢献することが期待されます。

 

Depositor : 饗場 篤 先生
東京大学
Strain name : C57BL/6N-Del(16Pi4ka-Hira)Atai
RBRC No. : RBRC11066
Reference : [1] Saito R, Koebis M, Nagai T, Shimizu K, Liao J, Wulaer B, Sugaya Y, Nagahama K, Uesaka N, Kushima I, Mori D, Maruyama K, Nakao K, Kurihara H, Yamada K, Kano M, Fukada Y, Ozaki N, Aiba A.
Comprehensive analysis of a novel mouse model of the 22q11.2 deletion syndrome: a model with the most common 3.0-Mb deletion at the human 22q11.2 locus.
Transl Psychiatry. 2020 Feb 5;10(1):35.

 

November 2021
Saori Mizuno, Ph.D.
Contact: Experimental Animal Division, RIKEN BioResource Research Center (animal.brc@riken.jp)
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