September 2021 Mouse of the Month |
マウスでの冬眠様状態の誘導
B6J.B6N-Qrfp<tm2.1(icre)Stak> (RBRC11137)
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冬眠は、一部の哺乳類が、冬季の低温や飢餓などエネルギー源が乏しい状況に直面した際に、能動的に体温、代謝を低下させ、エネルギー消費を抑制することで、環境に適応させる生態システムです。これまで、この制御された低代謝状態を人為的に誘発し、人工冬眠として、人体の組織、臓器への酸素供給が滞る臨床現場や、酸素に限りのある宇宙空間において利用できないか模索されてきました。しかし、有用なモデルがなかったため、冬眠誘導メカニズムの解明は困難で、実現には至っていませんでした。最近、冬眠様状態を誘導する新規神経回路を発見したと報告され、話題になっています。寄託者の櫻井先生らは、以前にQRFP(pyroglutamylated RFamide peptide)という脊椎動物に広く保存されている視床下部神経ペプチドを同定しており[1,2]、今回、神経下部の視索前野の一部(前腹側脳室周囲核; AVPe)に局在するQrfp陽性ニューロン(Quiescence(休眠) inducing ニューロン; Qニューロン)を興奮させると、体温と酸素消費量が低下し、休眠状態(Q neuron-induced hypometabolic state; QIH)となることを発見しました[3]。実際に、条件付きで遺伝子発現を制御可能なCre/loxPシステム(QニューロンでiCre酵素を発現するマウス; Qrfp-iCreマウス; RBRC11137)と、神経細胞の人工的な活動操作が可能にするDREADD(Designer Receptor Exclusively Activated by Designer Drugs)システム(hM3DqレセプターとそのアゴニストCNO (クロザピン-N-オキシド))を組み合わせて、Cre依存的なAAVをAVPeに投与し、hM3DqをQニューロンに発現させ、人為的にQニューロンの興奮を誘導可能なマウスを作出し、QIHマウスとして解析を進めています。これまでの行動解析、組織学的解析結果から、QIHマウスは、長期間にわたり可逆的な低体温・低代謝状態、つまり冬眠様状態を示すことが明らかになっています。また、神経科学的解析、遺伝学的解析を通じて、Qニューロンの主要な標的神経核は視床下部背内側核で、グルタミン作動性及びGABA作動性のニューロンの両方がQIHの誘導・維持に重要であることもわかっています。非冬眠動物であるマウスで冬眠様状態の誘導に成功したことで、今後、冬眠に関するメカニズム解析が進み、応用利用につながることが期待されます。 |
Depositor | : | 櫻井 武 先生 筑波大学 |
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Strain name | : | B6J.B6N-Qrfp<tm2.1(icre)Stak> | |
RBRC No. | : | RBRC11137 | |
References | : | [1] | Takayasu S, Sakurai T, Iwasaki S, Teranishi H, Yamanaka A, Williams SC, Iguchi H, Kawasawa YI, Ikeda Y, Sakakibara I, Ohno K, Ioka RX, Murakami S, Dohmae N, Xie J, Suda T, Motoike T, Ohuchi T, Yanagisawa M, Sakai J. A neuropeptide ligand of the G protein-coupled receptor GPR103 regulates feeding, behavioral arousal, and blood pressure in mice. Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 May 9;103(19):7438-43. |
[2] | Okamoto K, Yamasaki M, Takao K, Soya S, Iwasaki M, Sasaki K, Magoori K, Sakakibara I, Miyakawa T, Mieda M, Watanabe M, Sakai J, Yanagisawa M, Sakurai T. QRFP-Deficient Mice Are Hypophagic, Lean, Hypoactive and Exhibit Increased Anxiety-Like Behavior. PLoS One. 2016 Nov 11;11(11):e0164716. |
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[3] | Takahashi TM, Sunagawa GA, Soya S, Abe M, Sakurai K, Ishikawa K, Yanagisawa M, Hama H, Hasegawa E, Miyawaki A, Sakimura K, Takahashi M, Sakurai T. A discrete neuronal circuit induces a hibernation-like state in rodents. Nature. 2020 Jul;583(7814):109-114. |
Septmber 2021 Saori Mizuno, Ph.D. Contact: Experimental Animal Division, RIKEN BioResource Research Center (animal.brc@riken.jp) All materials contained on this site may not be reproduced, distributed, displayed, published or broadcast without the prior permission of the owner of that content. |